じっと、見つめる。
腕の中の体温はこどものようにやわく、あたたかい。手袋の下の冷たそうな指先は存外熱をもって、じわりと互いの温度がとけだして。触れた先から、交わり合う。
「チェズレイ、起きてるでしょ」
「えェ……いつからお気づきで?」
さぁ、わかんないけど、なんとなく。……――そうモクマは返したが、実のところチェズレイの目が覚めた瞬間からずっと、気付いてはいた。何のために狸寝入りしているのか理由まではわからなかったけれど。
放って泳がせておけば寝込みを襲うとでも、思われていたのだろうか(実際何度かその欲求を抱いたのは事実ではあるが)。モクマは腕の中のぬくもりを肌で感じながら、その細くて長い睫毛の数を数えていただけだ。
リハビリと称した同衾に始まり、彼が無防備にこの腕におさまるまでにはかなりの時間と忍耐を要した。ここに至るまでに噛まれたり引っ掻かれたりと常に生傷は絶えなかったが、今となってはずうっと懐かなかった猫がようやっと気を許してくれたようなむずかゆいような嬉しさというか、得も言われぬ多幸感をただひたすらに独り占めしている。
「今日は二度寝しちゃおっか」
「……ふふ、だらしがないですねェ……」
するりと、腰に腕が絡みついてくる。これがチェズレイの体温。こんなにもじかにチェズレイの体温を知っているのは、モクマぐらいのものだろうか。
チェズレイがモクマの指に甘く歯を立てる。そうして少し強く噛んでから、窺うようにこちらを見上げてくる。
「悪い猫ちゃんだねぇ」
すっと目を細めて、モクマはチェズレイの上顎を指の腹ですりすりこすってやる。ぴく、跳ねる肩を押さえ付けて、ちょっと乱暴に唇を奪ってやった。
こんなじゃれあいができるようになっても、チェズレイはまだ自覚していないようだった。ずっと一緒にいたい、触れ合いたい、かまってほしい、自分だけを見ていて欲しい。
その感情に名前があることを、チェズレイはまだ、知らない。もちろんモクマは知っているけれど、教えてなんかやらない。
唇を離しながらモクマはじっと、潤んだアメジストを覗き込んで微笑んだ。