小説1

No.05 素敵な恋を、おめでとう。

夏の強い日差しが大分和らいで幾日か。朝陽が心地良く窓から射し込み、白いレースの影が床でゆらゆらと踊る。窓を大きく開ければ小鳥の囀りでも聞こえるのかもしれない。しかし、寝覚めの脳と肌にこのところの朝風は少々冷たく、私はキッチンの壁に備え付けら…

No.04 星座の名前

「私、あなたに恋をしたようです。……と、言ったらどうします?」月の無い夜だった。日に日に欠けて身を細くしていった光が不在であっても、夜空は決して寂しいものではない。寧ろいつもの明るさが無いからこそ、星々の光を愛でるにはいい機会だった。部屋の…

No.03 恋、故意 糸、意図

共同生活というものは『習慣』や『常識』と呼ばれるモチーフをいくつもつなぎ合わせた、いわばパッチワークのようなものだ。日々のパッチワークは続いてゆく。ほつれかけた糸があれば、その都度かがってやらなくてはならない。今回もまた、ひとつちぎれかけた…

No.02 デート

何かがおかしい。確かにそう思うのに、何がどうおかしいのかが分からない。仕事のあるなしに関わらず、いつだって体調は万全だ。ごくまれに、力を振るった高揚がなかなか静まらないことや、また気分良く飲みすぎてしまった翌日、酒が残っていると感じることも…

No.01 xyz

「いらっしゃいませ、モクマさん」モクマは一瞬、戻る部屋を間違えたと思った。「えっ……え~、どしたん? これ」「今宵の晩酌は、いつもと趣向を変えてみようかと」ここは、とあるラグジュアリーホテルの最上階に位置するスイートルームだ。シックな間接照…