小説Aブロックまとめ

小説Aブロックの一覧です。

  • No.01 xyz

    「いらっしゃいませ、モクマさん」モクマは一瞬、戻る部屋を間違えたと思った。「えっ……え~、どしたん? これ」「今宵の晩酌は、いつもと趣向を変えてみようかと」ここは、とあるラグジュアリーホテルの最上階に位置するスイートルームだ。シックな間接照…

  • No.02 デート

    何かがおかしい。確かにそう思うのに、何がどうおかしいのかが分からない。仕事のあるなしに関わらず、いつだって体調は万全だ。ごくまれに、力を振るった高揚がなかなか静まらないことや、また気分良く飲みすぎてしまった翌日、酒が残っていると感じることも…

  • No.03 恋、故意 糸、意図

    共同生活というものは『習慣』や『常識』と呼ばれるモチーフをいくつもつなぎ合わせた、いわばパッチワークのようなものだ。日々のパッチワークは続いてゆく。ほつれかけた糸があれば、その都度かがってやらなくてはならない。今回もまた、ひとつちぎれかけた…

  • No.04 星座の名前

    「私、あなたに恋をしたようです。……と、言ったらどうします?」月の無い夜だった。日に日に欠けて身を細くしていった光が不在であっても、夜空は決して寂しいものではない。寧ろいつもの明るさが無いからこそ、星々の光を愛でるにはいい機会だった。部屋の…

  • No.05 素敵な恋を、おめでとう。

    夏の強い日差しが大分和らいで幾日か。朝陽が心地良く窓から射し込み、白いレースの影が床でゆらゆらと踊る。窓を大きく開ければ小鳥の囀りでも聞こえるのかもしれない。しかし、寝覚めの脳と肌にこのところの朝風は少々冷たく、私はキッチンの壁に備え付けら…

  • No.06 やっぱり君が好き

    モクマは己の全身を手のひらでバシバシ叩きながら青褪めた。(……ない!)しまっておいたはずの大事なものが見つからず、全身からドッと汗が噴き出す。午前中はチェズレイの表の事業での打ち合わせに同行し、昼から分かれて一日限りのショーマンとしての仕事…

  • No.07 あまい恋の切れ味

    ごくり、と喉の曲線が上下する。唇の内側では味わう舌が艶めかしく動いているのだろうと想像させる数秒。焦らすように吐き出された吐息はしっとりと甘いに違いない。芸術的とも官能的ともとれる絵画の中心で、絶世のモデルはモクマに笑いかけている。つられて…

  • No.08 勿忘草

    ※注意同道後、モクマさんが一時的に記憶喪失に陥っている描写を含みます。「…………0点。もう一度どうぞ」「ええ、これも違うかあ〜」かれこれ病室の個室で欲しい答えを貰えないまま、三十分はゆうに過ぎていた。モクマの頭部には包帯が痛々しく巻かれてい…

  • No.09 戀

    「お前さん、それなにしてるんだい?」す、と突然背後から腕が伸びてきて、思わず震えそうになった体を何とか抑えた。午後4時。そろそろ夕暮れの色が空を覆い、夜へと変わる狭間の時間帯。モクマさんのお母様の住まいからそう離れていないホテルの一室。よう…

  • No.10 「こいのお味はいかほどかしら」

    「こいのお味はいかほどかしら」※本編後、ヴ前、くらいのイメージのパラレル時空を想定しています。ミカグラ島の一件から一月程経ったある時期のことである。次なる征服計画のために、某国へとモクマとチェズレイは移動していた。空港に着き、地元のレンタカ…

  • No.11 恋をした化け物の末路

    シャ…シャシャッ……よく手入れされたプラチナブロンドに、軽快に踊る鋏の音。調子の外れた鼻歌。サンルームの床に落ちた金糸が、午後の日差しに照らされて宝石のように輝いている。鋏の音が止まったと思ったら、白金を一房つまんでまるで大層大切な宝物を眺…

  • No.12 未必のこい

    「モクマさんとチェズレイ様は恋人同士なんですよね?」「は?」酒が入っていたグラスを思わず落としかけたモクマである。生憎今夜は済ませておきたい業務がありまして。二人で一杯やろうという申し出を相棒にそう断られたモクマは、彼の部下を二、三人程捕ま…

  • No.13 五分以上十分未満

    足元から、生ぬるい風が吹いた。風は胸を撫で上げるように通り、最終的に髪を空に捧げるように散らす。風は潮騒の香りを伴って、チェズレイの美しい髪を弄んだ。モクマは、それをただ見ている。風にたなびく髪と、パラソルの下で物憂げに海を見つめるチェズレ…

  • No.14  l’amour c’est être stupide ensemble.

    ――あなたが囁いたのは、私の耳じゃなく私のハート。あなたがキスしたのは、私の唇じゃなく私の心。さり、とチェズレイの指がモクマの顎髭を撫でる。一日の終わりともなれば、朝に整えたはずの髭も無精髭候と言った姿に戻っていて、指先に抵抗感を覚えた。「…

  • No.15 親からすればいつまでたっても子供は子供

    夏の夜の紺青が、橙色の夕焼け空をゆっくりと侵していく。明確な境目を設けずに、交じり合った部分を淡い紫色に染めながら空を塗り替えていくこの時間は、ひどく穏やかに進んでいるように錯覚さえする。海沿いの道で車を走らせながら、モクマは時折視線をグラ…